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zoom RSS 祝芥川賞 『火花』(又吉直樹)

<<   作成日時 : 2015/07/18 00:46   >>

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ちょうど、読んでいたのでした。忙しさに紛れて発表日だということを忘れて。
芥川賞、おめでとうございます。
正直、芥川賞作品は読んでみて「ダメだ〜」(作品が、ではなく自分がついていけない)と思うことが多く、
実際何冊も途中で挫折していて(ストンと自分の中に落ちてくれないと、なんだかバカにされてるような気がして)
芥川賞作家でこの人の作品、好き、と思ったのは川上弘美くらいなのだけれども、
この『火花』という作品は、私は文句なく好きです。

ここで何度も書いたことがあると思いますが、本というのは嗜好品なので、
私がついていけない本だと思っても「これ最高」と思う人も多いででょうし、
私がいいと言っても、「なにこれ、アカンやん」といわれるものも当然出てくるという前提のもとに書いています。
(っていうか、私はくさす書評は書かないことにしてる。
だって誰かには合うかもしれないのに書評みて読むのやめる人がもしいたら、大変な機会損失だから。
だから、私が「なんやこれ、馬鹿にすんな」とブン投げた本は、ここに書かれず黙ってブン投げられている)

芸人として、本読みとして、言語学的大喜利番組での言葉遣いとして、の又吉直樹さんも大好きです。
ちょっとイキ過ぎていて、シュールに過ぎて、「それはこっちには伝わらんやろ」って思うことも多いけど。

でも、この小説は、そんな「過ぎた」感じが全然なかった。
チャンと「伝わってくる」実にまっとうな、青春小説だと思いました。
又吉さんの「小説が好き」という気持ち、小説へのリスペクトがとても素直に出ていて、
気取った文学青年が書いた、いやな構えがまるでない。
読み始めこそ、ちょっと「純文学的」な用語に、私はノッキング起こしそうになったけれど、
それは、又吉さんは純文学が好きで、そういう文体のものを読み慣れてそれが血肉になっており、
私は、どちらかというと直木賞寄りのものばかりを読んできて、芥川賞的な素地が足りないから、かもしれない。

それと、私が感動したのは、芸道青春小説だったから、かもしれない。
芸を志す者は、純粋に良いもの、面白いものを作りたい、と思い、
才能(って何?と悩む思いは別として)があったとしても、それとは全然次元の違う、
でもそれもまた絶対的な価値である「売れる」「認められる」という価値観ではかられてしまい、
時間でも、生活でも、人生でも、何者にも代えられない大きな犠牲を払ったとしても、
支払った代価に見合った価値が得られるとは限らない。…それが芸の道の切なさだ。

「漫才師とはこうあるべきやと語る者は永遠に漫才師にはなられへん。(中略)本当の漫才師というのは、極端な話、野菜を売ってても漫才師やねん。(中略)これがまず本物のボケやねん。(中略)僕の相方ね自分が漫才師やいうこと忘れて生まれて来ましてね、阿呆やからいまだに気づかんと野菜売ってまんねん。なに野菜売っとんねん。っていうのが本物のツッコミやねん」
「伝えなあかんから、そこの努力を怠ったら、自分の面白いと思うことがなかったことにされるから。(中略)趣味やったらね、趣味やったらそれでいいと思うんですよ。(中略)捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山入ってくるかもしらんけど(後略)」
「必要がないことを長い時間かけてやり続けることは怖いだろう?一度しかない人生において、結果が全くでないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。(中略)リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。(中略)この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う」

芸を志して、力は認められながら売れなかった…しかも、随分いろんなことを犠牲にしたのにリスクの取り方もきっと甘かった。人生を生きた実感がない…私自身にぐさぐさ刺さる。
芸人としても売れた又吉さんに、なぜこの痛みが書けるのだろう。ちょっと、悔しい。

それでも、ラスト近く「支払った代価に「想い」が反映されないという、世界の圧倒的な無情さ」に、
作者は優しい救いを描いてくれた、気がします。

私が一番好きだったのは、(ネタバレになるので細かくは書けないが)ライブで漫才をしているシーン。
泣いてしまった。
芥川賞系で、泣くほど感情移入できたのは初めて。

『火花』ってタイトルも、いいなあ。読み終わって改めて思いました。
主人公のコンビ名やら、最初と最後の花火のシーンやら、人と人との触れ合いぶつかり合いやら、
いろんな意味が読み取れそうな、いいタイトルです。

芸人さんの又吉さんだから書けた芸の道の深みかもしれないけど、
作品の出来、評価、価値は作者が売れっ子芸人であることとは全く関係なく、文学として面白い小説です。
私のように、芸の道に迷い込んだ人間であれば、なおのこと、
たとえ「ピース又吉が芥川賞獲ったらしいからちょっと買ってみるか」と手に取っただけの読者にも
最後まで読んでもらえれば、ちゃんと何かが残る作品だと思います。


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